【御神録】太刀振り|京都府京丹後市大宮町河辺|二◯二三年十月七日、八日
はじめに申し上げます。
長文です。
ご興味のある方は、もしお時間に余裕がありましたら、
ご一読いただけましたら幸いです。
2023年の春。電話が鳴りました。
自分がまだ何にも分かっていなかった頃(今も大して変わりませんが)から、
自分のような者にも、いつも物事の道理や筋をよく分かるようにご丁寧に話してくださる、
尊敬する方からの着信でした。
新型コロナウィルス感染症により、行動制限がまだ設けられていた頃でした。
あまり遠出はできないけどと、近場のある街に奥さまと旅行に出かけられたそうです。
その際、たまたま通りがかった場所で地元の祭りが行われていて、
その祭りがとても面白いものだったと、そのときのお話を聞かせてくださいました。
「お前が住んでいるところにも、祭りはあるのか?」と訊かれました。
自分が生まれ育った地区の祭りの話をしました。
とても興味深く話を聞いていただき、「それは面白そうな祭りだな」と仰っていただきました。
そして、「その祭りを撮ってみたらどうだ?」と仰いました。
コロナ禍により、伝統行事であるお祭りが各地で中止になったり、縮小になったり、
満足に行えない数年を過ごしているときでした。
その後すぐ、新型コロナウィルス感染症が5類に移行すると発表されました。
「今年からは各地で祭りの通常開催が戻ってくるのでは」という気運が高まっていた時機。
自分はその制作に挑戦させてもらうことにしました。
地元の祭りの保存会さまに、この企画の件をご相談させていただきました。
とても快く受け入れてくださり、多くのお力添えをいただきました。
そして、2023年の10月、4年ぶりの通常開催となった地元の秋祭り、
“河辺の太刀振り”の2日間にわたる巡行を映像と音で記録させていただいたのでした。
この制作に参加してくれた友達のことを、書いておきます。
▼録音について
現場の録音に、兵庫県三田市から、ヤブが来てくれました。
ヤブとは、知り合ってからもうすぐ20年くらい経ちます。
知り合ったとき、ヤブはバンドのギタリストでした。
現在は、作曲やトラックメイク、サウンドデザイン、
シンガーソングライターにシンセサイザー演奏、その活動スタイルは多岐。
本当に音楽が好きなんだなと思います。
今回は、フィールドレコーディングにまで、柔軟に対応してくれました。
いつも自分の無茶なお願いを受け入れてくれるヤブには感謝しています。
ここ2年ほどで、ヤブとは制作を共にすることが増えました。
重ねるごとに、呼吸が合っていくような感覚を個人的には感じています。
傾聴力も高いし、いつも肯定的に対応してくれるし、
コミュニケーションが本当に取りやすいです。
そして、自分は、ヤブがつくる音が好きです。
ヤブの表現の振り幅を尊敬しています。
ヤブの仕事の丁寧さを信頼しています。
カメラのマイクの音だけでは、この仕上がりにするのは不可能でした。
祭りの独自性を表す御囃子を、ヤブがきれいに録音してくれ、整えてくれました。
ヤブのおかげで、この音像にたどり着けました。
そんなヤブの個人サイトはこちらです。
▶︎【籔 裕介 Website】
▼撮影について
1台のカメラでの撮影では、到底収められないと思いました。
せめて、もう1台はカメラが欲しいと思いました。
自分は、動画撮影に関してどこかで学んだわけではなく独学でやってますが、
同じようなノリで参加してくれる人を呼ぼうと、大阪の友達、ヤマシに声をかけました。
はじめから、ヤマシにしか声かける気はなかったですが。笑
俺たちのポイントガード。
自分より歳は4つ下ですが、「まあ、なんとかするだろ」と、回しを任せられるタイプ。
声はデカいし、よく笑う。
ゾーンに入ると、めちゃくちゃよく喋ります。
そして、割とすぐ、頻繁に、ゾーンに入ります。笑
でも、よく見てる。
だから、ちゃんと笑えます。
たぶんヤマシとなら、いっしょに地獄に行ったとしても、
まあまあ笑ってられるんちゃうかなと思います。
自分は、こんなタイプの1番が好きなんです。
ヤマシは動画撮影は初めての経験だったようです。
カメラの本体を機材屋さんでレンタルして、
自分が所有してるレンズを装着し、簡単に設定だけして、
「録画ボタンここね」とだけ伝えて三脚といっしょに渡しました。
あとは、なんとかするだろうと。笑
事実、ヤマシが撮ってくれていた映像に、たびたび助けられました。
また、こんな現場をいっしょに経験して、高め合っていけたらおもしろいなと思います。
ヤマシは、ラッパーでもあります。
今年、ヤマシが長く勤めていた職場を辞める際、
先輩や後輩たちに贈りたいということで、いっしょにつくった音と映像の作品がこちらです。
もしよかったら聴いてみてください。
▶︎【Spanish Bar “BANDA” PV】
▼音楽について
自分と同じ河辺地区に生まれ育った幼なじみ、ゲン。
自分は、ゲンがつくる旋律がとても好きです。
悲しくて、優しい、そんな旋律。
今回の作品にも、構想段階初期からゲンの旋律を使いたいと思っていました。
自分たちが生まれ育った河辺の太刀振りを記録する作品なので、
特にその思いが強かったのかもしれません。
ゲンに、16小節の旋律をもらいました。
そして、ヤブにそれを渡して、この旋律を拡げてほしいとお願いしました。
今回は、友達の作曲家ふたりの融合が見てみたいと思ってしまったからです。
結果、自分にとっては、とても嬉しい旋律がこの作品を包み、彩ってくれました。
想像以上でした。間違いなかったです。
ゲンは、CONSTRUCTION NINEというバンドをやっています。
同じく河辺出身の弟、ソウタが歌っています。
大好きなバンドです。
もしよろしければ、そちらもチェックしてみてください。
▶︎【CONSTRUCTION NINE “少年晩夏” MV】
▼結界について
今回、記録させていただくものが神事であるということで、
映像作品の冒頭と末尾に、結界のようなものを設けたいと思いました。
聖と俗、ハレとケを隔てる境界を示すようなものが欲しかったのです。
相談させてもらったのは、友達のデザイナー川口さん。
川口さんは、いつも、自分の取り止めのない心象に形を与えてくれます。
今回も、自分のなかのイメージを川口さんに伝えて、表してもらいました。
「御神録」の文字については、毛筆のイメージがありました。
川口さんのお母さんが書を嗜まれると教えてもらい、お願いさせてもらいました。
母娘の共作デザインで、仕上げてもらいました。
そのことは、自分たちにとっても嬉しいエピソードになりました。
結界のような意味を持つしるし。
そのような役割を持つものが既にあるのか、それはなんと呼ばれているのか。
調べてみましたが、適切なものが見つかりませんでした。
ないなら、名前を付けようと思いました。
区切りや境の意味がある「界」と、
しるしの意味がある「章」を合わせ、
「界章(かいしょう)」と呼ぶことにしました。
界章は、自分たちにとって、とても大切な意味を持ちます。
実際、神域でも撮影や録音をさせていただく制作です。
記録の最初に界章を通ることで、日常とは違う神聖な行事を記録させてもらう線引きに。
記録の最後に界章を通ることで、もとの場所に戻る直会のような意味も込めました。
お祭りを記録させていただくということが、自分たちにとっては神さまへのご奉仕です。
神さまへ感謝を捧げ、地域に代々伝わる伝統や、地元の方々への敬意と感謝の気持ちを込めて、
記録物を制作させていただくのだという決意と覚悟を界章で表しました。
川口さんと、川口さんのお母さんのおかげです。
本当に感謝しています。
もし何か自分のなかのアイデアを形に表したいことがあれば、
オーデザインチャンネルズの川口さんにお問合せされてみるといいと思います。
川口さんなら、きっとそのアイデアに息吹を吹き込んでくれると思います。
川口さんの個人サイトはこちらです。
▶︎【Planet N】
自分は、34歳のとき、生まれ育った町に帰ってきました。
調理師として働いていたため、基本的に土日祝は仕事でしたが、
祭りのときだけはなんとかお休みをいただき、参加させてもらっていました。
平日の夜も仕事であることが多いため、祭りの練習には参加できないので、
当日でも参加可能な役割をいただきました。
それでも、祭りには、祭りでしか感じられない昂りがありました。
それを、誇りと呼ぶのかもしれません。
お祭りの原点は、小さな村や町にあると思います。
地域の力がもっとも重要で、地域の人たちが守り、
継承し続けることでしかその未来はありません。
しかし、そんな貴重な神事も、少子高齢化や地方の過疎化などにより、
担い手不足で継承が危ぶまれるものが日本各地で多くあるそうです。
この企画の目的は、単に祭りを資料として記録映像に残すということではなく、
次世代を担う若者たちに、ネットやSNSやを通して届く映像の情報として、
「君たちの地域にはこんな素敵な神事が、お祭りがあるんだよ」
ということを伝えたいというものです。
地元の若者たちが、それを誇りに思って自慢してくれるようになれば、
祭りという神事の継続と繁栄につながるのではないだろうか。
地域の祭りを活性し、
未来へ存続することの一助になれるような記録映像をつくることができないだろうか。
この企画の準備が始まった頃に、まずしっかりと教えていただいた、
いちばん大切なその核心を、制作中に何度も何度も思い返しました。
そのことを常に自分に言い聞かせながら制作しました。
撮影中はその感覚をうまく言葉にできなかったのですが、
祭りに参加されている方々の表情、所作、その振る舞いに引き込まれるように撮影していました。
非日常である、という条件がそうさせていたのかもしれません。
気がつけば、その姿に魅了され、下手くそながら夢中でカメラを回していた感覚を思い出します。
長い間、地域の方々の力で継承されてきた祭りは、
常に、今を生きる人たちのためにあったのだなと思いました。
たまたま生まれた故郷という場所の祭り。
そこで、たまたま同じ地域で暮らす方々と、
祭りという非日常を共に過ごすことで故郷への愛着が深まり、
故郷の祭りに誇りを持つようになりました。
自分で選んだわけではなく、与えられた場所は、
気がつけば、誇りを持って自分で選びたいと思える場所になっていました。
自分は、生まれ育った河辺の太刀振りしか詳しく知りませんが、
日本全国、それぞれの地域に、そんな私のような人がたくさんいらっしゃるのだろうと思います。
また、事情や理由はそれぞれ、人生の色々なご縁や流れのなかで、
故郷ではないその町にやってきて暮らしておられる方々もたくさんいらっしゃいます。
そんな方々も、祭りを通して地域の人との絆が培われ、繋がりが深くなっていくというのが、
祭り文化の大きな価値のひとつではないかとも思います。
この企画を、自分の地元である河辺の太刀振りから始めさせていただいたこと、
本当にありがたいことだと感謝しております。
河辺太刀振保存会さま、施行部の皆さま、河辺地区の皆さま、
本当にありがとうございました!
今後、他の地域の祭りでも、この記録映像を制作していけたらいいなと思っています。
大したことは出来ませんが、この型でよければ、自分たちにも出来ることがあるかもしれません。
奉仕活動で、という訳にはなかなかいきませんが、
もしご興味を持っていただきました地域の方がいらっしゃいましたら、
お気軽に下記までお問い合わせいただければと思います。
よろしくお願いいたします。
▶︎info@crabworks.jp
2024/08/31 - MOVIE